<女は筋肉 男は脂肪/第4章:今、気にすべきは 女性は「筋肉」をつける・男性は「脂肪」を減らすこと(5)>

「男性が脂肪を減らさなければいけない」理由

無理なダイエットによる「やせ」や、身体活動量がかなり少ないことが、やがては筋肉の衰えや骨密度の低下につながり、骨粗鬆症、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、さらにはアルツハイマー型認知症にいたるリスクを招きやすいことを、女性は強く意識する必要があります。

そこで、女性の重要な健康課題として強調したいのが、「女性は筋肉をつけなければいけない」でした。

そのいっぽうで、男性にとって重要な健康課題は、「男性は脂肪を減らさなければいけない」です。要は、肥満の解消です。

肥満は、「エネルギー摂取量が、相対的にエネルギー消費量を上回ることによって生じた状態」です。体重が多いというだけではなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態を指すところがポイントです。

男性にも女性にも肥満の人はいますが、問題なのは体脂肪がどこについているかで、それによって健康への危険性は大きく異なります。

肥満の種類の図

比較的女性に多い「皮下脂肪型(洋ナシ型)肥満」は、腰まわりや太ももなど下半身を中心に皮下脂肪が多く蓄積しているものの内臓脂肪は比較的少ないのが特徴です。

比較的男性に多い「内臓脂肪型(リンゴ型)肥満」は、筋肉の内側の腹腔内に体脂肪が多く蓄積しているのが特徴です。

日本人の死因の約6割を占める生活習慣病の発症リスクを高めますが、皮下脂肪型肥満の人には生活習慣病の症状はあまりみられません。

メタボリックシンドロームはなぜ危険か

男性に多い内臓脂肪型肥満に関連するのが「メタボリックシンドローム」、略称「メタボ」です。

内臓脂肪の蓄積に着目して、へその高さの腹囲(ウエスト周囲径)の数値に加えて、血中脂質・血圧・血糖の数値から判断して脂質代謝異常・高血圧・高血糖のうち2つ以上を保有していると判定される複合リスクの病態をいいます。

日本におけるメタボの診断基準

メタボリックシンドロームがとても怖いのは、自覚症状がほとんどなく、なかなか気づかないことです。自覚症状がなければ自分は元気だと思い込みやすいですし、現在の生活習慣が好ましいものか好ましくないものかの認識もほとんどないでしょう。

その間にも、危険な状態はどんどん進行していて、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中を起こして死にいたるか、重大な後遺症によって介護が必要な日々を送ることを余儀なくされる人も少なくありません。

大切なのは、健診によるメタボリックシンドロームの早期発見です。検査をすれば、数値は正常なのか、あるいはすでになにがどの程度進行しているのかが分かりますから、すぐに適切な対応がとれて、手遅れになる確率も下がるでしょう。元気だからと思って安心しないで、年に一度は健診を受けるべきです。

こうした状況を受けて、平成20(2008)年4月からはじまったのが、40~74歳を対象にした年に一度の「特定健康診査(特定健診)・特定保健指導」です。

それまでの健康診断は、がんや生活習慣病を早期に発見し治療することを重視していましたが、メタボリックシンドロームの該当者と予備群を減らす目的に変わり、該当者には特定保健指導(積極的支援、動機付け支援)が行われるという仕組みです。

メタボリックシンドロームの診断基準である血中脂質に関連して、一般的に、同じ年代の男性に比べて閉経前の女性は、血中の善玉(HDL)コレステロール値は高く、悪玉(LDL)コレステロール値は低くなっています。それぞれ動脈硬化や心筋梗塞の予防因子とされていることから「善玉」、その危険因子とされていることから「悪玉」と呼ばれています。この傾向には、女性ホルモンの関与が強く示されています。

しかし、閉経後の女性は女性ホルモンが著しく低下し、加齢とともに悪玉コレステロール値が高まる傾向がみられます(善玉コレステロール値はそれほど低下しません)。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋